2008年1月1日火曜日

東奥日報に見る明治三十六年の八戸及び八戸人

明治三十六年二月十八日
凶作の影響
凶作の影響に就いては佐間、鈴木の両視察員は先ず東北各県県会は凶作を名として県費の縮小を行いたるため行政機関は甚だしく停滞したるにより小学生父兄は中飯の不如意と授業料筆紙料等の費用を厭いて子弟を出校せしめざるより東北地方中すでに数校の閉鎖学校を見るに至れると役場における徴税の容易ならざると等に及び更に市況にありては大略本県弘前市は付近村落は割合被害少なかりし為市況に大変化なかりしと鯵ヶ沢、木造等は非常の不景気にして平年田地一反歩に担保として八十円位の貸借ありたるものが今年二十円の貸借も容易ならず又その売買は普通百二十円位なりしものが今五十円内外に下落したると各村落より北海道出稼ぎ人ぞくぞくなるも給料の減額なりしと青森市は流石港湾だけに格別の変化なきと七戸、八戸、三戸の如き市況非常に寂寥なると、盛岡市は格別の変化なく花巻は非常の不景気の和賀郡十沢、遠野、黒澤尻等は格別の不景気なく一関より宮城県に入りてやや変化なき事等の挙げ最後に「これを発するに未だ市況に大なる影響を及ぼさざるは前述の如く未だ多数の農家が食料欠乏を告げざるが為なるも来春(即ち今春)に至らば其の影響事実となりて市況に及ぶべきや疑いを容れず次に南京米、外国米は至所に輸入せられ相場は概して十三銭五厘位なり内国米は之と大差なく白米一升十四銭位にて取引せらる米穀は凶作にもかかわらず南京米あるが為に大なる騰貴を来さざれども蓄財なき農家は之を購うに由なく余穀ある者亦之を売りて利益を占むる能はざるなり」と論ぜり
八戸の養母殺害詳報
去る九日午前一時八戸町大字荒町三番戸菓子製造業戸主中村常太郎(二十六)なる者養母キク(五十九)を殺害したる末直に突然変死したる旨自ら八戸警察署に届け出たるをもって森署長は巡査を従い死体を臨検せしに形跡死状自殺にあらずしてまさしく他殺の嫌疑あるを以って帰署の上厳しく常太郎を取り調べしに自ら殺害せしに相違なき旨を自白したり今其の由来原因等を探聞するに被害者キクは八戸十三日町中村丈一郎の伯母にして亡養父栄蔵は子なき為幼少の時キクを貰い受け養育し成長の後他より婿をいれ多年連れ添い来たりしに其の婿は四五年前老死せり其の間に子なかりし為是まで養子を貰い受けたること前後七八名の多きに及びしも何れも数ヶ月もしくは一年位に立ち去り長く落ち着き居るものなし聞く所によればキクは大の淫乱嫉妬なる上頗る吝嗇にして養子と言う養子に関係付けぬはなく又養子に嫁を貰えば始終嫉妬の上小言の絶えることなきのみならず三度の食事は豚も食わぬ粗食を与えることの為何れもいたたまれずして立ち去りしものなりと言う九人目に貰い受けられしは当主常太郎にて是は八戸町大字十六日四十六番戸根城弥六郎の三男にして去る三十四年十一月入籍の末三十五年一月中下長苗代村大字日計山本仁太郎よりチエ(二十歳)というを嫁に貰い受けしに間もなく妊娠凶行当時は出産の為親許へ戻り居りたりキクは相応の財産を有し現住居の家屋敷は勿論田畑馬等の外貸し金などもあり時価にて三千余円もあるべく是までは自分の名義なりしも近頃其の幾部を常太郎に分譲したりと凶行の当夜即ち八日常太郎は実家其の他へ遊びに行き午後八九時頃帰宅せしに養母キクはこの節不景気柄他人は何れも稼業に精出してさえ糊口も出来ぬと言う騒ぎなるに独り暢気に遊び歩くとは不心得なりと言いしよりかれこれ口論を初めたる末午後十時頃両人とも室を異にし寝につきたりしに常太郎は之を含みしものか翌九日午前一時前垂れの紐にて熟睡しおりたるキクを無残にも絞殺死に至らしめたるものなりと又一説に常太郎は婿に来たりし時より養母と関係しおりたることは事実にして世間誰知らぬものなき次第なるがキクは多淫の性質とて此れに飽き足らずなおも其の上常に出入りする常太郎の実父とも関係したりとかせぬとかの噂もあるにかかわらず又そのうえ或る伯楽を業とする常番町の某とも馬を所有せる関係より通じ合いその伯楽の乞うが儘金銭を貸与し仕込ませおるを見て憤慨しこれに及びしものならんとも言う是れ噂は真に近からんか殺害の当日即ち九日午後三時青森地方裁判所三つ森予審判事守津検事には書記一名を随え出張直に警察署員並びに種市医師立ち会い臨検せられし結果死体を解剖に付されることとなり十日種市医師は自宅即ち一松堂医院にて解剖せしに正に絞殺に紛れなく且つ姦淫したる形跡もありしという死体は解剖結了後十日午前正十二時親族へ下付せられしを以て十一日午後二時菩提所なる天聖寺へ埋葬せり常太郎は十七八歳の頃八戸二十八日町の酒店美濃屋へ奉公中或る同輩の丁稚と共謀し店の銭箱より売り溜金を窃取したることが発覚し窃盗犯として処分せられたるものにて性質正しからず方なりと
八戸肥料会社の臨時総会
来る十日午後一時より十六日町天聖寺に於いて臨時総会を開く由なるが議事項目は会社を湊村へ移転し及び営業目的を変更するの件、定款三十四条三十五条を削除し併せて役員報酬旅費日当支給法変更の件等なりという尚この程重役会を開き社長の互選を行いたるに長谷川藤次郎氏当選就任せりと
八戸肥料会社
株主の請求に基づき解散の目的を以て去る十五日臨時総会を開きたるが結局長谷川藤次郎氏は一株金一円六十銭宛にて解散派の所有株式二百八十余株を買収しとにかく存続することに決定せりと
三戸郡湊小中野両村合併問題
本紙先に報道せしが尚聞く処によれば現今の状況にてはとても経済整理の見込みなきを以て両村会議員十中七八は合併を承諾したれども他は反対なるため今日迄延引せしが今回両村有志者より本県知事へ愈々両村合併を申請せんとて取り運び中なりと
凶作地僧侶の救済義捐金募集
上北郡三本木村正法寺住職駒ケ嶺定正氏は窮民の惨状を見るに忍びずとてあまねく宗門より救済義捐金募集の計画をなし過般四五の同宗僧侶と十数名の信者と協議の上先ず宗派なる曹洞宗務局と打ち合わせ方々種々協議の必要あるより有志を代表して過般上京宗務局に就いて宗徒義捐募集の計画より其の方法を述べ一大救済団を起こさんとを陳告して同意を求めたるに如何なる考えにや宗務局にては面白からぬ返答なるより駒ケ嶺氏は大いに宗門の冷淡無情にして仏徒として其の道に悖るは言うまでもなくかくの如き有様なるゆえクリスト教等の下風に置かるる醜態を現すなりとて大いに憤慨する所ありこの上は少数微弱の団体なりとは言え大いに天下の血に富む宗徒に訴えて一には窮乏に苦しむ民衆の困厄を救い一には宗門の堕落を矯正せしめんとて帰来益々救済の方法等苦考する所あり先ず手近の方法として規約を設け同宗応分の義捐を求めん
八戸より 凶作の影響にて市況は平年と甚だしき相違あるは言うまでもなき事に候えども昨今天気続きにて市内三、八、十三、十八、二十三、二十八日町等の六市日市日には随分在方の人出も多くなり市況も多少立ち回り候〇生魚は何分在方に捌けず魚商は割合に商いふるわざるを嘆じおり候これも在方不作の為に候〇藁製品は依然仲買商の倉庫に堆積の有り様にて目下の処販路を広めて輸出を急がざれば今後在方よりの荷回りを買い入れ能わざる有り様の由なるが昨今販路も漸く拡張に至るの気勢ある由に候〇小学校教科書は町方へも又在方へも平年と変わりなく売りさばけおり凶作の影響は別に学校生徒の休校者を出すまでに至らざる様子に御座候〇付近村落の農家にては慥かに日用品の購買力を滅したる傾向あり市況は如何とも思わしからぬ有様なりとて雑貨商等は殊の外コボシおれる由にて御座候
八戸呉服組合商春季運動会
この運動会は八戸町呉服木綿商三十余戸の組合より成れるものにして昨年より毎年春秋二季に各組合員を以って挙行の事に規約なり昨年も盛んに行なわれたるが本年も春季運動会を四月二十六日旧城跡なる長者山において挙行せられたり○午前八時組合三十余戸の店員五十余名は長横町なる同組合事務所へ集合するや五六の役員は何れも洋服姿にて夫々の世話指示に尽力し午前八時半を報ずるや一隊五十余名は行列を組み会旗その他数流の旗を翳して長者山に向かいて同会運動会歌を合唱しつつ行進せり、一隊の声調律然として奉公の義を唱い人の感懐を惹けるものあり長者山に達すれば幔幕万国旗等会場の装飾整いて遺憾無く会員は設けの席に暫くの休憩やがて長者山東南方旧馬場に於いて運動番組に入る吉田藤井等の同会幹部専ら運動上の指揮監督をなし泉山、西村の幹事ら又来賓その他の応接に当たり賞品係り等も手落ちなくその他十四五名の世話人もありて万事の準備行き届いて見えたり
運動番組は三十五にして 一新打球、二同、三双龍争球、四暗算、六売り上げ算、七自転車乗り用商務、九商品産地聞き取り、十商用地理、十七反物包装等 中略、午後六時運動終て賞品の授与あり無数の来観者は散々として一日の歓を尽くし家に帰る五十余名の呉服木綿組合商店の健児等隊を組み同組合事務所へ帰る疲労の状なく勇健掬うが如きものありというべし後略
八戸呉服商人大運動会余報
係員関野市十郎、藤井與惣治(賞品)泉山太三郎、西村嘉助、山田常次郎、伊藤藤兵衛、村井清八(審査)吉田三郎兵衛、永島富次郎、林市太郎(演技)内藤豊五郎、村井新八(記録)村田嘉十郎(応接)西村伝次郎(場内取締)
受賞者 暗算一等石の鉢幸蔵(能竹店)藤井銀三(西嘉店)自転車商務関野嘉七(甲文店)盲測量村井定之助 反物包及び商用地理競争工藤武雄
自転車用達高橋福次郎(泉山店)後略 読者諸兄の先祖の名あるやも。詳細は東奥日報検索のこと
八戸の博徒 八戸にて博徒渡世して有名なる二十三日町の吉田忠吉、金田文助、組町中村鉄之助の三名は日中しかも三十日の勘定なるにも拘わらず公然前記の中村方にて一六勝負の最中斉藤刑事石橋巡査の両名に踏み込まれ引致せらる
角袖の密行 (カクソデを下から読んでデカの語源)弘前市内みてはこの程出火又は放火等甚だ物騒を極めるより各町内にてはこの際大に警戒を加え夜回り等を為して怠りなきが警察にても過日より角袖巡査を派し尚火の用心のみならず密淫売の横行をも警戒する都合にて頻繁に巡回しおれるが市民は之を知らずに往々街路に小便又は放吟等する者ありとこれらを悉く違刑罪に問う不心得の者注意あれ